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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)287号 判決 1977年10月11日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井上忠巳、同横山茂晴の上告理由について

原審の適法に確定したところによれば、(一) 本件土地及びその地上の旧建物(第一審判決添付地上権目録記載の建物)は、いずれも株式会社陣屋多門(以下「陣屋多門」という。)の所有に属し、本件土地は、その全体が不可分的に旧建物の工場用地として利用されていた、(二) 株式会社東京相互銀行(以下「東京相互」という。)は、陣屋多門に対し、本件土地及び旧建物の買受資金二、五〇〇万円を貸付け、右貸金債務を担保するため、昭和三九年九月三〇日、本件土地につき一番根抵当権の設定を受けたのであるが、その当時、陣屋多門は、近い将来旧建物を取り壊し、本件土地上に堅固の建物である新工場を建築することを予定しており、東京相互もこれを承知していたので、あえて旧建物については抵当権の設定を受けなかつたものであり、右新工場の建築を度外視して本件土地の担保価値を算定したものではない、(三) 東京相互は、陣屋多門が旧建物を取り壊して堅固の建物である本件建物の建築を完成したのち、本件土地について抵当権を実行し、昭和四一年一二月二〇日みずからこれを競落して代金を支払い、その所有権を取得した、というのである。

思うに、同一の所有者に属する土地と地上建物のうち土地のみについて抵当権が設定され、その後右建物が滅失して新建物が再築された場合であつても、抵当権の実行により土地が競売されたときは、法定地上権の成立を妨げないものであり(大審院昭和一〇年(オ)第三七三号同年八月一〇日判決・民集一四巻一五四九頁参照)、右法定地上権の存続期間等の内容は、原則として、取壊し前の旧建物が残存する場合と同一の範囲にとどまるべきものである。しかし、このように、旧建物を基準として法定地上権の内容を決するのは、抵当権設定の際、旧建物の存在を前提とし、旧建物のための法定地上権が成立することを予定して土地の担保価値を算定した抵当権者に不測の損害を被らせないためであるから、右の抵当権者の利益を害しないと認められる特段の事情がある場合には、再築後の新建物を基準として法定地上権の内容を定めて妨げないものと解するのが、相当である。原審認定の前記事実によれば、本件土地の抵当権者である東京相互は、抵当権設定当時、近い将来旧建物が取り壊され、堅固の建物である新工場が建築されることを予定して本件土地の担保価値を算定したというのであるから、抵当権者の利益を害しない特段の事情があるものというべく、本件建物すなわち堅固の建物の所有を目的とする法定地上権の成立を認めるのが、相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定に沿わない事実若しくは独自の見解を主張して原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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